ガラス転移

通常、液体をゆっくり冷却すると、液体は凝固点を越えたところで結晶化する。一方、 液体を急冷した場合、液体は凝固点を越えても結晶化せずに液体状態が保たれる。こ の状態は過冷却液体と呼ばれる。これをさらに冷却すると、分子は不規則な構造のま ま凍結する。この状態はアモルファスな固体、すなわちガラスと呼ばれる。ガラス状 態では、分子運動の緩和時間が実験スケールに比べ十分長くなりるため、分子運動が 凍結したように見える。

無定型鎖状高分子における誘電緩和では、複数の緩和過程が観測されることがある。 これらの緩和は、低周波側からα緩和、β緩和と慣例的に呼ばれる。このうち吸収が 最も著しいα緩和は主鎖セグメントのミクロブラウン運動に起因するものである。ま たβ緩和は鎖状分子内の小さなセグメントあるいは側鎖の回転運動に起因するものと 考えられてきた。ここ数年の測定技術の向上により、低分子量分子性液体の低温領域 でもβ緩和が観測されるようになった。現在、β緩和は様々な物質で観測されている が、その現れ方や温度依存性を予測する系統的なデータは存在しない。しかしβ緩和 には、物質によらないユニヴァーサルな緩和メカニズムが存在するのではないかと考 えられるようになっている。

現在ガラス転移に関する研究は盛んに行われているが、水のガラス転移に関係したダ イナミクスは、ほとんど調べらていない。これは水が、他の物質に比べ凍結しやすい ためである。しかし有機溶媒に水を溶かすと凍結せずにガラス状態にすることができ るため、ガラス転移付近のダイナミクスが観測可能となる。本研究では、含水量を変 えるとことでβ緩和の現れ方が変わることから、β緩和のメカニズムに対して新しい 知見が得られると考える。

  • S. Sudo, N. Shinyashiki, N. Yamamoto, D. Shirakawa, and S. Yagihara,”The Study of Dielectric Relaxation in Supercooled Alcohol-Water Mixtures” Proceedings of The 8th Tohwa University International Symposium on Slow Dynamics in Complex Systems, (1999).